7月24日にthe HIATUSの6枚目のフルアルバム「Our Secret Spot」がリリースされた。
2009年に結成されたバンドの10周年イヤーを彩る新作にして、フロントマンの細美武士さんが1つのバンドで”6枚目”に初めて到達したアルバムでもある。
アルバムをリリースする度に、馴染みのある日本のロックとは離れた未知の体験に誘われた。
今作も相変わらず少し難解でかつ奥深い作品である。
聴こえてくる音における各楽器の配置、それにより立体感を味わえるサウンド。
最低限の音数で最大限を引き出す、ミニマムだけど正確無比な演奏。
そして、このバンドらしい厳かな緊張感にも包まれている。
だが、今までの作品と比べると何だか軽やかというか、イヤホンの向こうにいるバンドメンバーがとても自然体で演奏し、歌っているような気がする。
それは、10年間続けてきたことで生まれたメンバー間の信頼関係、風通しの良さからでもあるだろう。
the HIATUSの音楽には薄暗い一面があるがゆえに居心地の良さを感じてきた。それはきっと他のファンにとっても、当のバンドにとってもそう。
そして、暗闇から射す光だから求められるということをお互いに解り合っているのだと思う。
ツアー2日目の美しい夜
リリースから1週間後の8月1日に全国ツアーの2日目のライブをZepp Tokyoで観た。
今日はZepp Tokyoにてthe HIATUSのツアー2日目を観に来ました。エイタス実に一昨年の秋ぶり…!! pic.twitter.com/g3wKKOwia2
— Sugar (@Sugarrrrrrrock) August 1, 2019
勿論のことながら、ライブで体感する生演奏の方が音源で聴いた時よりもフィジカルな熱気を感じた。
それでいて、メンバーそれぞれが楽曲を引き立たせる演奏に徹していることも伝わってきた。凄腕のプレイヤーが集まっていながら、良い意味で個々のプレイヤビリティが目立つことはない。
You know
Hunger is a way of my life– the HIATUS「Hunger」
アルバムの1曲目、この日のライブでも最初に演奏された「Hunger」で歌われているように、常に新たな表現を渇望し、時に渇望そのものを歌にして今までにない音楽を表現し続けることが、このバンドが10年間貫いてきたやり方だ。
変わらないことの良さを伝えながら、時代に合わせて進化をしているアーティストもいる。それこそ細美さんが並行して活動しているMONOEYESや、昨年10年ぶりに復活して当時の楽曲で熱狂を起こしているELLEGARDENはそういうタイプのバンドかもしれない。
一方で、the HIATUSは変わり続けていくことの良さを表現して続けてきたと思う。
I’m still only partway through
Can’t keep going back to this
We still have lots of things to learn– the HIATUS「Time Is Running Out」
このバンドを通じて会得したいことや表現意欲はまだまだ尽きないのだろう。
最初のMCで細美さんは
「さあ10周年の始まりです。良いバンドになったと思うからさ!」
と短い言葉で今のバンドへの自信を表した。
長い月日を積み重ねながら、作品毎にアコースティックにエレクトロに姿を変えてきた。
こちら側も変化への戸惑いは徐々に消えていった。この日もバンドの変化を楽しんできたオーディエンスに囲まれていたと思う。
そんな人達同士がライブで直接顔を合わせることは、お互いにとって大きな後押しになってきただろう。
「こっちから強制することは何もないから、自分の好きなように最後まで楽しんで」
とバンドは演奏を再開。
作品を出していくに連れて、所謂アップテンポな楽曲は無くなっていったが、細美さんが話した通り、オーディエンスは各々が楽曲を自分のものとして自由に楽しんでいた。
また、今回の新曲は全体的にボーカルのキーが低く、細美さんの歌声が丁寧に、芯にじっくり迫るように紡がれていく。
視覚的に派手に盛り上がることは無いものの、心地良い熱気がじわじわと身体を覆っていた。
サビでフロアからのシンガロングが優しく響き渡った「Radio」を終えると、お客さんの1人が「最高!」とステージに投げかける。それに対して細美さんは
「そりゃあ最高でしょ!音楽だけやってこんなに沢山の人に見てもらえることって無いからね」
と返した。こういったライブ中のコミュニケーションは他のアーティストでも起こり得ることだが、このバンドに関しては特に本心同士でやり取りをしているように感じる。
その後は10年間の振り返りに代えて各メンバーが「生まれ変わったら何になりたいか」を順番に話したり、この日楽屋で行っていたという「最後に触った人が勝ちゲーム」をステージ上でも継続していたりと、自然体過ぎる姿を見せていた。
そんなMCタイムの締めくくりに
「すごい器用貧乏で、何でも平均よりちょっと出来るんだけどそこから全然伸びなくて、このバンド10年続けて、すげぇゆっくりだけどずっと伸びて行くんだなと思えるようになって、今まで書けなかったような曲が書けるようになりました」
と話した細美さん。
バンド初期に襲われた内側の葛藤を乗り越え、10年間の歩みを肯定するかのように新しいアルバムから「Regrets」を演奏した。
No regrets, no
I’m breaking out of it– the HIATUS「Regrets」
逆説的だが「後悔はない」という言葉は過去に後悔した人が使う言葉だと思う。
後悔を抱えて、それが今後にプラスに働く原動力になるまでには時間がかかるものだから。
だからこそ、細美さんがMCで語っていたように、自身ですごくゆっくりだけど伸び代を見出した先でこんなに美しい曲が完成したのをとても嬉しく思う。
続いてアルバムタイトルが歌詞に登場する「Chemicals」
まさに神秘的というか、パワースポット的な雰囲気が漂うサウンドに包み込まれた。
Not everybody wants to know
– the HIATUS「Chemicals」
「Our Secret Spot」は10年間変化を続けて辿り着いた、今の時代のロックバンドが鳴らせる一つの境地だ。
それと同時に、周りは知り得ない後悔を抱え、他の皆は大して気にしてないことを気に掛けてきた人達にとっての秘密の場所でもある。きっとそれは当のバンドにとっても。
この日のZepp Tokyoもそのような場所になっていたに違いないし、これまで何度も聴いて来たハイエイタスの楽曲も、それぞれがリスナーにとっての「Our Secret Spot」になってきたと思う。
そんな居場所を守るべく細美さんは
「これからもずっとライブハウスにいると思う。俺たち特にサービス精神とか無いけど、こっから10年ももし良かったらよろしくお願いします!」
と今後の意気込みを語り、さらに
「特にハイエイタスだと感情が溢れちゃって、本当に捨てたもんじゃ無いなって思う。みんながいると」
と言葉を続けた。
Remember that you were
You were nobody’s test drive– the HIATUS「Silence」
もともと細美さんのソロから始まったthe HIATUS。バンドメンバーが集まってライブを重ねてもしばらくのうちはバンドではなく「プロジェクト」という呼称だった。
今はソロでもプロジェクトでもない。感情と体温を持つロックバンドになった。勿論代わりはいないし、メンバー各々の活動が並行しても、ハイエイタスがそのための実験台になっている訳でもない。
今回のツアーはアルバムツアーなので、過去の楽曲からはアルバムの雰囲気や今のバンドのモードに合う楽曲が選ばれているように感じた。その結果、前作や前々作など、比較的最近の楽曲が多く演奏されていた。
そんな中で本編の終盤に演奏されたのが、2ndアルバムに収録された「Insomnia」
過去の後悔や孤独、暗闇の中から悲痛な叫びを轟かせる。まさにthe HIATUSらしいアンセムソング。
制作当時精神的に困憊していたという細美さんが叫ぶ「Save me」に、時に何千何万ものオーディエンスが共鳴し、その悲鳴に自分達の孤独や闇は救われていた。
でも、そんな過去の後悔は今作で一旦は拭い去った。
この日の「Save me」は当時からしたら考えられないであろう状態の良さと、このバンドが10年間続いてきた充実感をもって、更なる挑戦へと震え立たせるための叫びだった。
そして、続けて披露された「Firefly / Life in Technicolor」では、前の曲とは180度変わったように虹色の照明がステージを華々しく彩った。
演奏を終えた直後に細美さんは
「いや~気持ちよかった~~~人生のどん底とテッペンみたいな(笑)、不眠症から極彩色でした」
と笑顔で話した。バンド初期の苦しみは今や笑い話として、それでいてここまでバンドを動かしてきた血肉となっていた。
そして
「本当にありがとう」
と短く感謝を述べて、アルバムの最後を飾る「Moonlight」を本編のラストに祈るように歌い上げた。
I want my soul to sing again tonight
– the HIATUS「Moonlight」
奈落の底から極彩色の人生までを体感した10年を経て、これからは再び新たな魂の使い処を探す10年になっていくのだろう。
本編終了後程なくしてスタートしたアンコールでは新譜から唯一本編で演奏されていなかった「Get Into Action」を披露。
Say it’s alright
Say don’t live in the past
Just don’t wait and go now– the HIATUS「Get Into Action」
この曲中にある「過去には生きない」というフレーズも、過去に縛り付けられた経験がある人にしか歌えないものだと思う。ここまでも書いてきたことだが、本当に10年間のキャリアが随所で想起される作品だ。
アンコールのMCでは、10年以上前からステージに立っているZepp Tokyoが20周年を迎えたことを祝福し、
「みんな本当に歳を取ったね。笑 それでも若い連中も来てると思うんだ。あんまりいなそうなんだけど、(フロアを見渡して)いや〜いなそうだな~(笑)」
「でももし今バンドをやっていて、いつかZeppのステージに立ちたいと思ってる奴がいたら、絶対出来るよ。それでいつかフェスのバックヤードで会いましょう。そん時に”細美さん、僕あの時ハイエイタスのツアーにいたんですよ”って言ってくれたら、マジでベロベロにぶっ潰してやるから(笑)」
と、細美さんなりの次世代への期待と、思い入れのあるZepp Tokyoからツアーを始められる喜びを語っていた。
ここでしか分かち合えない秘密の場所
10年の間に大好きな音楽に傷を抉られて、精神を削られて、でもその傷は音楽にしか埋められなかった。
the HIATUSというバンド名には「隙間」という意味がある。
心のどこかに隙間や穴を抱えている人にとってそれを埋めてくれる存在、というよりは穴を塞がない方が良いと言ってくれたり、一緒に痛いと叫んでくれる存在。
自分もハイエイタスの楽曲が奏でる心の悲鳴に救われたことがある。
だけど今は聴いていて笑顔になる。
かつての傷跡は、このバンドの良さを分かり合える人だけが入れる秘密の空間の入り口になっている。
と言うとなんだか閉鎖的かもしれないが、このバンドに関してはそれで良いのかもしれない。
かなり前のエピソードだけど、秋田に『OGA NAMAHAGE ROCK FESTIVAL』っていう大好きなフェスがあって。そこに出店してた「東北ライブハウス大作戦」のブースに顔を出したの。そしたら地元の高校生の男の子が来て。「僕はthe HIATUSが大好きです。でもクラスのみんなに聴かせても、こんなのロックじゃないとか言われる。周りの人に聴かせてもピンときてくれないけど、でも僕はこれが一番カッコいいと思う」ってわざわざ言ってくれてさ。嬉しくて「俺らは、お前みたいなヤツのためにやってんだよ」って言ったの。その気持ちはずっと変わらないんだよね。
細美武士が語るthe HIATUSの10年。バンドという絆を育てた道のり – CINRA.NET(https://www.cinra.net/interview/201908-thehiatus_yjmdc)より
ハイエイタスの音楽から感じる暗闇は今も変わらず居心地が良い。
けど、それは今も彼らが心の闇や絶望を表現しているからではない。
此処から何かが動き出すワクワク感。それを1人で密かに感じ取れる薄暗さに居心地の良さを感じる。
そんな1人ひとりが色んな場所いて、たまにライブ会場に集まって秘密を分かち合う。それは奇跡みたいな美しい夜なんだ。
そして、暗闇を楽しめるようになったことで、自分の人生も少し極彩色に近づいたのかもしれない。
続きは10月1日に行われる10周年アニバーサリーライブにて。
このバンドがここまで続いたことを祝福し感謝し続けたい。でも彼らはそんな幸福感を否定したくなるほどに、表現への渇望も抱いているはずだ。
その勇気を見くびることなくこれからも見届けていきたいと思う。
ハイエイタスのライブ観てこんなに心穏やかになる日が来るとは。
眠れぬ闇から始まった10年から極彩色の10年に向けて、今日はただ少し優しく夜が明けそうだ。 pic.twitter.com/EhIlUVKvNd— Sugar (@Sugarrrrrrrock) August 1, 2019