レビュー

King Gnu 「Sympa」を掲げてポップミュージックに殴り込む理由

世界的にはヒップホップや打ち込み主体のビートミュージックが主流で、いわゆるバンド音楽は下火になっていると言われている。

そんな現代のワールドスタンダードに、日本のアーティストがどのように接続していくのか、そしてその中にJ-POP的な要素をどれだけ共存させることが出来るのか。

 

というテーマが2018年の日本の音楽シーンの中心で流れていたように感じたし、それに応えた作品・楽曲がいわゆる「年間ベスト」的な企画で取り上げられていたと思う。

 

 

結成当初からその命題と向き合いながら活動してきたのが、2019年の最重要アーティストとして話題にされまくっているKing Gnuというロックバンド。

 

年明けの1月16日に2枚目のアルバム「Sympa」でメジャーデビューを果たした。

 

 

楽曲はさることながら、ミュージックビデオのクオリティやメンバーの出自なども含めてアート性の高さを感じさせる。

“クリエイティブ集団”としてのオーラも放っている彼らがあえてメジャーで戦うことの意味、ポップミュージックに拘る理由が、今作の楽曲およびメンバーの姿勢から伺えた。そこにはとても熱いロック精神が宿っている。

 

前作「Tokyo Rendez-Vous」がCDショップで展開されていて、それをセンスの良さそうな若い人達が手に取っていったのを見て「イマドキのお洒落な洋楽アーティストかなぁ」なんて思っていた自分もついにガッツリ掴まれてしまった。

 

ということで今回は、今要注目のバンドに触れて感じたことを綴っていこうと思います。

King Gnuの基本理念「デッカくなる=ポップミュージックを鳴らす」

今、こうしてKing Gnuの音楽が注目を集めている理由を超個人的に考えてみると、純粋に今までに聴いたことのない音が鳴っているから。

そして、知らない音楽なのに何だかわかりやすくて心地よい、その絶妙なラインを刺激するからだと思う。

 

ミクスチャーバンドを名乗る通り、カテゴリーに括られることのない絶妙なバランスにありながら、サビや聴かせどころでは日本の歌謡曲らしさがあるような。

 

 

今作の「Sympa」というタイトルは「共鳴者」という意味があり、多くの人が共鳴する「Sympathy」から名付けられている。

そもそもKing Gnu(キングヌー)というバンド名も多くの人に届く音楽を作るという意味を込めて、群れで動くヌーから取られている。

 

つまるところ、このバンドはポップミュージックをやろうとしていて、それがこのバンドの基本理念とも言えるのだ。

自分たちがカッコ良いと思う音楽で規模的に”デカい存在”になろうとしていて、今バンドが急速的に大きくなりつつある。

 

 

「Sympa」の3曲目に収録されていて、アルバムに先立って昨年シングルカットされた「Flash!!!」は波に乗っているバンドの勢いが作らせた曲だと思う。

勢いに乗るバンドだからこそ歌える、パンチのあるフレーズが作品通して印象的だ。

 

洒落ていて技巧派だと感じる人も多いとは思うけど、言葉は堂々とストレートを投げ込んでくる。自分も何度か曲を聴いていくうちに、ロックバンドらしい血が通ってる音楽だと感じていった。

 

もう1つこのバンドの特徴といえば、バンドの首謀者であるギターボーカル常田さんと、キーボードボーカルの井口さんのツインボーカル。

 

特にアルバム中盤の「Don’t Stop the Clocks」「It’s a small world」に顕著な、井口さんが歌う高音で美しいメロディー、これから幅広いリスナーを引き込む大きな武器になっていくと思う。

「眠れる街・東京」を叩き起こす

先に上げた「Flash!!!」もそうだけど、King Gnuのロックバンド然した姿勢が特に前面に出ているのが今作のリードトラックに選ばれた2曲目の「Slumberland」

常田さんが終始メインボーカルを取るこの曲のミュージックビデオでは、テレビのキャスターを縛り上げて、自分たちの音楽で覚醒させる様子が描かれている。

MVに加え、地上波の歌番組でこの曲を演奏している様はとても痛快だった。

 

テレビ、インターネット、情報操作、受け身な聴衆に対する時代風刺な一面を見せながら、そのメッセージをもバンドの勢いに昇華させている。

“Wake up people in Tokyo Daydream. ”

Open your eyes, open eyes wide.

(目を覚ませ、目を凝らせ)

Rock‘n’ roller sing only‘bout love and life.

(所詮ロックンローラーは愛と人生しか歌えないんだ)

– King Gnu「Slumberland」

 

大都会、高層ビルの明かり、昼夜問わず行き交う人の群れを指して「眠らぬ街・東京」なんて言い方をよくするけど、そんなイメージとは真逆な歌詞だ。

 

「Slumberland」というタイトルは「眠れる国」という意味で、東京の街、人々を叩き起こそうというメッセージはとてもインパクトが強かった。

 

一方で、バンドが活動拠点としているのも同じくこの東京という街であり「眠れる街を叩き起こす」という意味に加えて、「眠っているからこそ夢を掴める」というダブルミーニングを感じた。まぁ彼らが意図するメッセージは前者だと思うけど。

 

 

ここまで、バンドの勢いが乗ったわかりやすく力強いメッセージが感じられる曲を選んで書いてきたけど、実際のところはどの曲もかなりの個性派揃い。

 

ベースもシンセベースが大半でエフェクトがかかりまくっているし、ギター弾くのと同じぐらいのノリでストリングスが入っていたりする。

そして、そんな曲たちを4つのインストナンバーで繋げるという画期的なことにもチャレンジしている意欲作だ。

引っ張り上げたい仲間がいるからデッカくなる道を選ぶ

だけどやっぱり、斬新な部分をポップに翻訳していくバランス感覚の良さこそ「Sympa」およびKing Gnuの魅力だと思う。

ツインボーカルがスイッチとなって、聴き馴染みのあるJ-POPな要素、攻撃的なロック要素、リズム隊が鳴らすブラックミュージックの要素を横断していくのだ。

 

 

どうしてそこまでポップミュージックに拘りを見せるのか。音楽メディアのインタビューで常田さんが率直な思いを語っていた。

 

単純に金を稼ぎたいということはまちがいなくあって。いまの現状として、基本的にJ-POP以外で金を稼いでいるミュージシャンがほぼいないじゃないですか。ただ、個人的にはそこを変えたいし、もっと文化的なものを発信できたらなと思っていて。それを自由にやっていくために俺らがデカくなっていく必要がある。そういう意味で、King Gnuは最重要プロジェクトですね。

OTOTOY「2019年、最初の衝撃がここに! ──鬼才集団・King Gnuによって突きつけられる革命的J-POP」(https://ototoy.jp/feature/2019011601)より

 

J-POPファンも味方につけたい。っていうか味方につけないとデカくなんないし。

(中略)

ここでKing Gnuみたいな方面でデカくなる必要がある。だし、こういうタイプのアーティストになれるヤツって俺は少ないと思うから、だからこそ自分がやらなきゃいけないと思うし。やっぱりフックアップしたいアーティストとか、見せ方がわかってないやつも仲間内にいっぱいいるんで、そういう意味で、業界全体を変えたいっていうのは根本として圧倒的にある

MUSICA2月号 King Gnuインタビューより

 

King Gnuのメンバーは主にアンダーグラウンドな音楽、その他にも映像やアートに精通している。

影響を受けて来た出自のシーンを引っ張りあげるべく、King Gnuはメジャーで、マスで戦い、勝ち抜くことを選んだのだ。

 

愛を守らなくちゃ あなたを守らなくちゃ

世界の片隅に灯るかすかな光を 掻き集めて

– King Gnu「The hole」

 

あなたの正体を あなたの存在を

そっと庇うように 僕が傷口になるよ

– King Gnu「The hole」

 

インストナンバーを除いてアルバムの最後を飾る「The hole」からは、カッコ良いことをやっているのに日の目を見ない仲間達に対する受け皿にもなり、自ら傷口となって新しいシーンを作り上げるんだという確固たる意志を感じた。

 

ちょっと強引にターゲットを一般化すると、ポップに開けた音楽でもあり、己の信じた道に向けて戦っている人のための音楽。ロックバンドとしての熱量もめちゃくちゃ詰まっている。

 

他のジャンルのアーティストもそうだろうし、自分のようなロックリスナーだって、King Gnuの姿勢に共鳴する人がまだまだ沢山ついてくると思う。

1年が終わる頃には一体どのぐらいのシンパが集まっているのだろうか。

 

音楽性も人間味も魅力たっぷり、改めて2019年要注目です。