2010年代はあちらこちらで「モノより体験」と言われた時代。
音楽に関しては音源よりライブ、そして音楽フェスの文化が幅広く浸透した10年間だった。自分もこの時代の波に乗っかった1人だ。
この時代のロックシーンの特徴として、アップテンポでオーディエンスを踊らせたり、フロアの一体感を高めるような楽曲が人気を集め、その状況を「フェスロック」という言葉で呼んだりもしている。
先日のGWにさいたまスーパーアリーナで行われた「VIVA LA ROCK 2019」に参加した。
[ライブレポート] 5/3 VIVA LA ROCK 2019を観た (1日目)
中でも初日の5/3のラインナップは、2010年代後半のフェスシーンの中心で活躍していたロックバンドを(意識的に)ズラリと並べたものだった。
そんな1日のヘッドライナーを担ったのがKEYTALK。
彼らの「夏・祭り・ダンス」をイメージさせる楽曲がこの時代のスタンダードだったことを再実感させられたし、10年代を締めくくるという点でも意義あるアクトだった。
そんな彼らも今年でバンド名がKEYTALKになってから10年が経つ。
更に昨年の秋にはメジャーデビューから5周年、今年に入ってメンバーも全員30代に突入した。
これらの大きな節目がいくつも重なったタイミング。ここで1つ大きな決断することは必然だと言わんばかりに、KEYTALKはメジャーレーベルを移籍して最初の作品をリリースした。
前置きが長くなったが、タイトルの通り今回の記事はKEYTALK特集。
節目が重なった今、バンドが新しい環境に身を置くことについて。
移籍第一弾にしてバンドのイメージを変える新たなアンセム「BUBBLE-GUM MAGIC」について。
そして2020年代と30代を駆け抜けるバンドのこれからについて。これら全てに期待を込めた特集です。
成熟したバンドの勢いを再加速させるための新天地
新しいことを始めたり、何かを変えたい時に「まず環境から変える」というのはよく言われることだ。球界においても、一定期間1軍で活躍した選手が他球団からの評価を聞いたり、更なる活躍の場を求めてFA移籍するケースが多い。
KEYTALKもきっと同じような想いがあって新しい環境を選んだのだと思う。
これからは「やるべきこと」と「やりたいこと」の間にある最適解を探しながら活動を続け、それを評価してくれる場所が以前に増して必要になってくるからだ。
彼らとしのぎを削ってきた同世代の他のロックバンドもこの数年で一定の到達点には辿り着き、個々の活動にシフトしている。その中で今も綺麗な右肩上がりを続けているバンドは多いとは言えない。それは決して悪いことではなく、むしろバンドが成長期を超えて成熟した証でもあると思う。
それでも、安定を望むことなく、現状維持はイコール停滞だという意識はどのバンドも強く持っているはずだろう。
大型フェスのメインステージやトリも任されるようになったKEYTALKだが、ロックバンドとしてよりポピュラーな存在になることを目指している。彼らは2年以内に横浜スタジアムでワンマンライブを行うことと紅白出場を直近の目標として公言している。
そのために、バンドの成長速度が最も速かった2014〜2015年頃のスピード感をもう1度手に入れたいとも話していた。
先述したVIVA LA ROCKの大トリのステージの初っ端に、メジャー1stシングル「コースター」と2ndシングル「パラレル」を続けて演奏したのも、当時の勢いを取り戻そうというバンドの姿勢の現れだったのかもしれない。
節目と成熟の時を迎えて落ち着く間もなく、バンドの勢いを再加速させるためにレーベルを移籍した。限りなく前向きな決断であることに違いはないだろう。
バンドの本質を突き、目標を見据えた新曲
環境を新たにしたKEYTALKの第一弾シングル「BUBBLE-GUM MAGIC」
ダンスナンバーかつ夏のパーティーチューンという位置付けは過去の代表曲と変わらないが、聴いたらわかる通りテンポを大きく落として横に揺れるノリを作り出した新機軸の楽曲だ。
VIVA LA ROCKのライブでも後半のハイライトで演奏されたが、ライブだとより一層開放的で、巨大空間にしっかり映える仕上がりだった。
BPMを落とし、音数を絞ってファンクネスを生み出しつつ、EDMにも通じるビッグなコーラスとシンセを組み合わせたアンセミックな一曲で、明確な新境地だ。この曲を繰り返し演奏することで、また新たなパフォーマンスが生まれ、バンドを次の景色へと連れて行くことになるのだろう。
VIVA LA ROCK公式HP FLASH REPORT(https://vivalarock.jp/2019/report/keytalk.html)より
こういったミドルテンポのダンスチューンはこれまでシングルに選ばれて来なかったが、the band apartやUNCHAINのような音楽をルーツに持つKEYTALKのメンバーにとって「BUBBLE-GUM MAGIC」のテイストはむしろ本質的な気がするし、個人的にも初めて聴いた時から自然に感じ取れた。バンドサウンドにスケール感を加えるシンセサイザーも違和感なく調和している。
バンドの代名詞である「MONSTER DANCE」や「MATSURI BAYASHI」などは無理やりにでも踊らさせられるような楽曲だが、「BUBBLE-GUM MAGIC」はリスナーの方から自発的に踊れるようなテンポでもあると思う。この「リスナー/オーディエンスの自発性」が膨らんでいくことが、KEYTALKを更にポピュラーな場所へと押し上げる1つのカギになるかもしれない。
移籍第一弾ということで新しさを感じさせつつも、先述した今のバンドの状況を考えたらあって然るべき曲だし、スタジアムバンドへの道筋に絶対必要な曲だと思う。
今すぐに「KEYTALKらしい曲」という評価には繋がらないかもしれないが、時間が経って振り返った時に新たな代名詞的な曲になっていたら良いのではないだろうか。この曲を手がかりに新機軸のダンスチューンを追い求めて欲しい。
描いた未来のために今必要となる大きな一手
ということで、KEYTALKのレーベル移籍と新曲について、そしてこれらがバンドのこれからのビジョンを見据えたものであることを書き連ねてきた。
新曲リリースから1週間経って、まだそこまで大きなムーブメントは起こっていない。
ただ、今までも少し先の目標を見据えながらその時々で必要な武器を集めて成長してきたのだからこそ、即効性のあるものに捉われず「急がば回れ」をより一層大事にして欲しい。
新天地で新しいリスナーとの接点を広げる機会はまだまだ作らなきゃいけないと思うし、何より「BUBBLE-GUM MAGIC」はバンドのこれからの伸びしろを感じさせる楽曲だった。
KEYTALKの30代、そして2020年代のバンド人生はもう一段階ポピュラーな存在へ、広いスケールを追い求めること。
お祭り番長でもエンターテイナーでもあり、それ以上にロックバンドであること。
これからは今まで以上に、描いた未来を見据えて必要な一手を仕掛けていくことが大事になると思う。
「みんなこういうの好きでしょ?」ではなくて「俺たちはコレがカッコ良いと思う」という姿勢をもっと見せて行って欲しい。
今作はその第一歩。新たな環境で踏み出したその一歩に、自分たちファンも、これからシーンを共に引っ張る同世代のロックバンドもリスペクトを向けているはずだ。