4/17にMy Hair is Badのワンマンライブを観に横浜アリーナへ行ってきました。
My Hair is Badを観に横浜アリーナに来てます。
この前のヨンフェスでは演奏しなかった新曲たちをこの規模でどう鳴らすのか。
横浜アリーナをライブハウスに変えるだけでなく”アリーナのライブ”も見せて欲しい。 pic.twitter.com/w3Tj9ppbzY— Sugar (@Sugarrrrrrrock) 2019年4月17日
昨年リリースされた最新作「hadaka e.p.」を提げた全国ツアー「ファンタスティックホームランツアー」のセミファイナル。横浜アリーナ2デイズの2日目の模様をお送りしていきます。
ライブレポート
紛れもなく、ライブハウスで育ち、ライブハウスに叩き上げられて、ライブハウスで戦ってきたロックバンドだ。
だが、前作のアルバムツアーではライブハウスを飛び出して全国のホール会場を回り、最新作「hadaka e.p.」は出自の枠に囚われない音楽、表現に向かっている途上にいることが伝わってくる作品だった。
そんな二面性があるからこそ、この日の横浜アリーナ公演はアリーナ規模でしか出来ないライブも意識していたと思うし、一方で「横浜アリーナをライブハウスに変えに来ました」的な一面も見せてくれる期待を抱えてライブに臨んだ。
「横アリ2日目、過去最大級のMy Hair is Badを演りに来ました!」
という椎木さんの意気込みに載せて、最新EPの「惜春」からライブはスタート。勢い余ってバンド名をちゃんと言えていなかったが。
これまで何度も「ホームランツアー」と銘打ったツアーを行ってきた彼らだが、ライブハウスのMy Hair is Badはホームランというよりもむしろ弾丸ライナーのような鋭い打球を放っていたように思う。
この日はアリーナのスケールに合わせて、まさにホームランのようにアーチを描きながら音を飛ばしているようにように感じた。ステージから1番遠くまで演奏を届ける意識は強かっただろう。
とはいえ、武道館でのワンマンやROCK IN JAPANの巨大ステージを経ての横浜アリーナ。このバンドがこの規模で演奏することに対する違和感は全く感じられない。会場を包み込むような客席からの歓声も彼らには似合っていた。
最初のMCで
「11年言ってきたバンド名を噛むとは思わなかった(笑)」
と冒頭の挨拶を椎木さんが振り返ると、バヤさんがすかさず
「お前よぉ!」
とツッコミを入れる。それに対して
「絶好調が故に調子出ないことってない?」
とフロアに問いかけるが、間髪入れずに
「ない!!!」
とやまじゅんが返す。ステージ上の3人はいたって自然体だ。
マイヘアの曲といえば椎木さんの一人称で語られる恋愛の歌、というイメージがどうしても付いて纏うが、キャリアを重ねるに連れてその趣きは少しずつ薄れていったように思う。
言い方を変えると、彼の歌はここ最近で一気に外に開いていったように感じる。それまでは自分の感情・私情を爆発させるようなスタイルだったから。
この日の椎木さんは「真赤」のような曲の際にも時折笑顔を見せながらギターを弾いていた。
彼の強烈な自分ごとが多くのリスナーの共感を呼んで今の位置まで登りつめたのは間違いない。
だからこそ、今となっては椎木さんは自身のためではなく、自分の作った曲に共感して会場に集まった人の気持ちに寄り添うように感情を込めてに歌っているように見えた。
同じく別れの歌の1つである「卒業」も、この日はアリーナ規模に広がるロックバラードとして雄弁に鳴り響いていた。
昨年の武道館のライブではこの曲や「悪い癖」などの曲で手書き風の歌詞をモニターに映す演出があったが今回はナシ。
横浜アリーナという大会場においても良い意味で特別感を演出しないのも、やはり今の3人にこの会場は身の丈に合っているからだと思う。
椎木さんは相変わらず調子が良過ぎるのか中盤のMCでもことごとく空回り、アリーナには度重なるスベり笑いが広がった。
曲中に即興で語り出したら彼の右に出る者はいないけど、音が鳴ってない時のMCになった途端に辿々しくなり舌足らずな言葉に変わる時がある。そこに何か似ている部分を感じてしまうのだ。
「噛み噛みだしカッカしちゃってるから、このカッカについて来てくれるか!お前らもっと笑えよ!!」
と再びエンジンを入れた「アフターアワー」では歌詞を変えて
「大事なものはやっぱ側にあるんだ 今日側にいるのは、お前らだよ!!」
と叫ぶ。ここからはもう、最後まで勢いは止まらなかった。
「ライブハウス出身、横浜アリーナをライブハウスにしに来ました!」
と期待通りの言葉を叫んで突入した「ディアウェンディ」で椎木さんはマイクスタンドを倒し、それを直すこともなくバヤさんのマイクで歌い続ける。スタンドを立て直したかと思えばまた倒し、今度は倒れたマイクスタンドと同じ高さに倒れ込んで歌った。
更に続く「燃える偉人たち」では椎木さんの獰猛なステージングに耐え切れなかったのかギターが鳴らなくなってしまった。しかし彼はそんなトラブルもお構いなしに今度は客席に突入し、他の2人も何事もなかったかのように演奏を続ける。
結果的に骨太なリズム隊の音が際立ち、即興も交えた言葉遊びが映えるライブパフォーマンスにオーディエンスは燃え上がった。
アクシデントをも味方に変えた椎木さんは
「結果的に予定通りじゃないライブに今日もなってるけど、お客さんに優しくすれば”椎木らしくない”と言われる。俺らしくただ表現しようとすれば”お客さんのことを考えてない”って言われる。どっちでも良いしどっちもやる。それが俺の仕事!」
と一言。さらに
「俺がこのバンドを続けていく上での1番の目標は、みんなを喜ばせることとビックリさせること。俺の言葉に共感してくれたことが一度でもある人、俺らの曲に自分を重ねた人、俺に似てる人、そいつら絶対に俺が救う!ワンマンライブに来ている今夜ここに居る人全員救ってやるよ!!」
と言葉を続け「フロムナウオン」に雪崩れ込んだ。直前までステージやりたい放題動き回った結果、唇が血で真赤になっていた。
「なんで自分だけこうなんだとか、自分だけ上手くいかないとか思うだろうけど、最後に勝つのは優しさと誠実さ。武器じゃない、自分を守ってくれるものだ」
「幸せは掴み取るものじゃない。気付いた時に自分で気付くもの。幸せに幸せとは書いてない。幸せに気付くために、選んで選んで選びまくれ」
この日もこの日しか聴けない想いの丈を次々に放っていたが、今のバンドの状況からして、それはその場の思いつきで出てくる言葉じゃないと感じた。だから無闇やたらにも我がままにも説教にも聞こえない。
矢継ぎ早に投げつける姿勢は攻撃的でもあるが、その言葉1つひとつには届ける相手を思う優しさがこもっていた。
この「フロムナウオン」が大体このバンドのライブのハイライトになるのだが、今回はここからが本番。
ライブハウスの延長線上のライブもアリーナのライブも見せてくれるという期待に応えてくれる、バンドが変革期の真っ只中にいることを強く感じさせる曲がライブ後半に続けて披露されていく。
その最たる曲が最新作の表題曲「裸」
「いくら愛や教養を見せ合っても 辿り着くのは裸だ」
と歌う椎木さんの表情は、先述した「真赤」や「卒業」を演奏している時よりも格段に切実に見えた。彼自身、この曲に関しては聴き手に100パーセント伝わっていないようなもどかしさを抱えているのだろうか。
昔の恋愛模様とは異なるスタイルで自身の内面を吐露する詞、”今の俺がやりたい音楽・表現はこれだ”と何かを訴えようと必死な姿が印象付けられた。
続く「戦争を知らない大人たち」もアリーナに力強く鳴り響く。思えばこの曲でメジャーデビューしたのも、自分が追求する表現と、求められている音楽を両立しながら成長してきたことを物語っている。
ステージを照らした輝く照明のように、夜空に煌めく星の数だけ存在する生命への愛を叫んだ歌。My Hair is Badのラブソングは、スケールと普遍性を追い求めて進化を続けているのだ。
メンバーの名前を呼ぶ歓声も静まるほどの余韻を断ち切り、椎木さんは
「カッコ良いバンドや先輩がバンド始めた頃から沢山いて、自分達と比べて落ち込むことが今でもあるんだけど、俺らは俺らを任されている。自分の人生の中に落ち込んだり捻くれている時間はそんなに長くしたくないし、バッドエンドで終わらせたくない。沢山の人が出てきて羨ましいと思われる映画になればいいと思っています」
と語り、このツアーから披露されている未音源化の新曲「芝居」を演奏した。
人生を一本の映画になぞらえるという曲のテーマは、27のバンドが歌うには早いんじゃないかと思うけど、若さも青さもあっという間に通り過ぎていくのを身をもって理解しているのだと思う。
常に新しい音楽を、今やりたい/やるべき音楽を探す彼らの姿勢は、ここからまた新しく生まれ変わるかのようでもあるし、人生という長編映画においては新しいチャプターとしてこれまでの章の後ろに繋がっていく。
これからも続いていくバンドの歴史にページが加わる度に重みが増していく曲になるだろう。
「メンバー・チーム・会社、すごく良い環境でバンドが出来ていて本当に嬉しいです!まだまだ沢山挑戦したい。今までも色んなことやって来たけど、懲りずにMy Hair is Badに付き合ってよ。懲りずに応援したくなるようなカッコ良いバンドになります!これも挑戦の歌です」
と続けられた「次回予告」では、過去のことや大切な存在を失ったこと歌ってきたバンドが「失くなったことばかり 思い馳せないでいて」「これから何度だって失くしていく」と歌う。
「芝居」「次回予告」を経て「ドラマみたいだ」を持ってくるのも文字通り劇的な見せ方だった。
振り返ってみると、この日のセットリストも今までのバンドヒストリーで見せてきた様々な顔を1つずつ味わえるものだったように思える。
そうやって感慨にふける間もなく、本編のラストナンバーに「告白」を叩き込んで最高速で駆け抜けた。
いつか終わってしまうから、過去の感情をも置き去りにするぐらいのスピードに乗って新しいことに挑戦していく。
それがバンド人生の充実、幸せに向かっていくことをこの日のライブで堂々と示していた。
本編で現在進行形のマイヘアを見事に提示した後のアンコール。緊張感から解放された椎木さんはステージで缶ビールを一気飲みした(2本) その後、
「昨日も横アリで、ライブの後話を聞いて欲しくて夜中に”今日のライブはこうだったから明日はこうしよう”って長文をグループLINEに送ったんだけど、みんな悪ノリし出したからもう1回長文送って、それでもバヤとか変なスタンプしか返してくれないから “誰も真面目に返してくれないんですね”って送りそうになって、そしたら個別でやまじゅんからめっちゃ長文のLINEが返って来ました。ホント最高。マジで救われた」
と前夜のエピソードを語ると客席からは歓声と拍手が湧き起こり、ステージでは3人の爆笑が湧き起こった。
このメンバー間の仲の良さと信頼のバランスこそ、バンドが続いていく1番の基盤だと再実感した。その後、悪ノリだけだったバヤさんは懺悔を込めてロング缶を一気飲み。
「こんな大きい場所でもふざけられて、良いメンバーに恵まれて本当に幸せです!みんなにも幸せになってもらいたいから、My Hair is Badで1番あったかい歌を」
と演奏した「いつか結婚しても」で椎木さんは後半のほとんどを観客の合唱に委ねた。互いが互いの幸福感を共有し合っている光景だった。
「この景色をまた次の街に持っていく」
と、最後は地元新潟でのツアーファイナルへの旅路に向けて「音楽家になりたくて」を届け、それでもこのステージが名残惜しいと最後の最後に「エゴイスト」を投げつけてツアーセミファイナルは幕を閉じた。
繰り返し言うけれど、この日My Hair is Badは”幸せなバンド”になって横浜アリーナのステージに立っていた。
その人にとっての幸せを感じられる状態、どのアーティストにとってもそれが目指すゴールにあって欲しいと思っている。
自らが幸せになれる方へ向かいつつ、ついて来てくれる仲間の幸せを願うようになった彼らを見て、マイヘアも大人になったんだなと感慨に浸っていた。
その数日後、地元新潟で行われたツアーファイナルで発表されたニューアルバムのタイトルは「boys」と名付けられた。
大人になったと思っていたけど、むしろこれから再び少年のような好奇心を持って新たな音楽を追い求めていくのだろう。
バッドエンドの短編映画を作るのはおしまい。My Hair is Badはハッピーエンドの長編映画を作るフェーズに突入した。更なる期待しかない。