2018年はここ数年の中でも特に、CDをあまり買わなかった1年間だった。
こう言うと聞こえが悪いけど、2018年はここ数年の中でも沢山のアーティストのアルバムを聴いた1年でもあった。
言うまでもなくサブスクリプション・定額配信の普及によるもので、その恩恵にあやかり、CDの単品購入だけでは手が回らなかった色んなアルバムを聴くことが出来た。
一方で、サブスクリプションの普及によって、アーティストの作品を曲順どおり聴くという”当たり前”と思われていたことも当たり前じゃなくなってきつつある時代になっている。
そんな時代にアルバム単位でベストを選ぶのはいかがなものかと思うけど、作品を評価することが最もアーティストを知ることが出来て、リスペクトを伝えられる手段の1つだと思っている。
ということで、自分なりのアーティストへのリスペクトを込めたベストアルバム2018。
ランキング形式になっているので是非順番に読み進めていって欲しい。
目次
ベストアルバム2018
ベストアルバム2018 Top15~11
15. 羊文学「若者たちへ」
早耳の音楽リスナー、ブロガーがこぞって話題にしていて聴いた羊文学の1stアルバムはかなり衝撃的だった。
若者とか、若い世代とかいう括りに属しているんだと実感したし、
「若者たちへ」というシンプルイズベストなベクトルが向いた音と言葉を、自分も含め今の世の中は求めていると感じた。
夏の晴れた海の風景が浮かぶのに、それとは真逆の鬱屈で諦観した感情が溢れている曲からは、ネガともポジとも取れない、それでも若者だから持ち得るエネルギーがひしひしと漲っている。
「ドラマ」の「青春時代が終われば 私たち生きてる意味がないわ」という歌詞にはかなり喰らわされた。
大人になるに連れてこのバンドが鳴らすものがどう変化していくのかとても楽しみ。
14. KEYTALK「Rainbow」
“KEYTALKといえば!”な夏のお祭りソングが入っていない。
フェスとか表向きのイメージから距離を置いたクールな曲が表を張っている5枚目のフルアルバム。
メンバー全員が作詞作曲を手がける音楽偏差値の高さでロックにポップに全方位変幻自在に乗りこなし、全員30代に突入したバンドサウンドにはさらに磨きがかかっている。
アルバム後半の「ミッドナイトハイウェイ」と「Rainbow road」は、メジャーで5年戦ってきた地力を爆発させたストレートなロックチューン。夜の高速をかっ飛ばすようにこれからもシーンを盛り上げて欲しい。
13. HEY-SMITH「Life In The Sun」
夏・海・カリフォルニア。パンクロックへの憧憬が溢れに溢れた1枚。
初っ端「Soundtrack」「Not A TV Show」の攻撃的な幕開けと、「No Mates」「Sunday Morning」から明るくなっていく流れがグッド。
疾走するメロディックパンクと軽快なスカチューンが次々とやってくるHEY-SMITHのアルバムのテンポ感は聴いていて本当に清々しい。
それでも猪狩さんはインタビューで「自分のために鳴らした音楽を、聴き手も自分のためになるように受け取って欲しい」と話していて、今作に漂う自由にも責任が宿っていることを訴えている。
戦うパンクを全面に出した前作「STOP THE WAR」と並べて、バンドの両面性を感じ取って欲しい。
12. マテリアルクラブ「マテリアルクラブ」
Base Ball Bearの小出さんとチャットモンチー(済)のあっこさんを中心に、あらゆる素材を見つけては未だ見ぬ音楽を作り上げる実験室のようなプロジェクト。
「閉めた男」「Kawaii」のような恐怖すら感じる実験作もあれば、小出さんの「この人とやりたい!」という純粋無垢な気持ちが産んだTOSHI-LOWさんとのコラボ曲「告白の夜」もあり。
ゲストアーティストとのコラボも多種多様で様々な化学反応が起こっている。
DTMでラップ・ヒップホップという軸があるけど、「1にロック」と歌った「Nicogoly」と、ライブの衝動とは何たるかを歌った「00文法」の冒頭2曲からは並並ならぬロックスピリットを感じた。
これからもこの実験室とバンドを行き来して相乗効果を生み出していって欲しい。
11. クリープハイプ「泣きたくなるほど嬉しい日々に」
ネガティブ感情が生み出す共感も好きだけど、個人的にはどんなバンドにも明るくなって欲しいと思っている。
このアルバムからは1枚通してポジティブで健康的なクリープハイプが感じられる。
「いつだって今が面白い」「今を大好きになる」といった”今”を前向きに捉えるワードが多発していて、そんな今の連続を「泣きたくなるほど嬉しい日々」と言っているのならば、こちらも思わず泣きたくなってしまう。
変なバンドを応援し続けてきた変な感性を持った村人にも、この数年で前向きな心の変化があったかもしれない。
一方で、前向きでポップな作品にしたのは逆にクリープハイプなりの反抗なのではないかという意見もあって面白い。
もしかしたら次の作品はまたひん曲がって尖っているかもしれない。
ベストアルバム2018 Top10~6
10. [ALEXANDROS] 「Sleepless in Brooklyn」
NYで制作の大半を行い、海外志向を全面に出した意欲作。
その中で日本発のロックバンドというアイデンティティを実感しつつ、やりたい音楽をやりたい放題やってやったぞという、バンドの自由度にスカッとさせられる。
1曲目の「LAST MINUTE」の心地良いリズム感が終始アルバムの下地となって、曲が進むほどどんどん乗せられていく。
「PARTY IS OVER」から「FISH TACOS PARTY」の流れは圧巻で、シングルで出た時には???だった「MILK」や「KABUTO」の聴こえ方もまるっきり変わっててメチャクチャカッコ良い。
ただ、1枚通して聴くことで威力を発揮する作品なので、「アルぺジオ」のようなポップソングや、従来の流れを汲んだロックンロールナンバーがあった方がもっと掴みは良かったかもしれない。
[ALEXANDROS]「アルペジオ」
[ALEXANDROS]「KABUTO」
9. きのこ帝国「タイム・ラプス」
夏の終わりから秋にかけて、このアルバムを流すのが習慣になってたぐらい普段聴きでかけていたアルバム。佐藤千亜妃さんの歌声は季節の変わり目にすうっと日常に入り込んできた。
終わってしまったこと、感傷に浸る時間を振り切って、前向きなパワーに変えようとしている。
だからこそ「ヒーローにはなれない”けど”」 であり「夢みる頃を過ぎ”ても”」なんだと思う。
「それでも」って気持ちが突き動かすのが、ロックだと思う。青く静かに燃える炎がこの作品には宿っている。
自分は9月に大学を卒業し、フリーランスとして社会人になった。この転機に「夢みる頃を過ぎても」の力強い歌声に何度もパワーを貰った。
きのこ帝国「金木犀の夜」
きのこ帝国「夢みる頃を過ぎても」
8. Age Factory「GOLD」
「Age Factory=時代を作る」という想いがみるみる現実味を帯びて、この国の音楽界を揺らしにかかっている、そんな作品。
1曲目の「GOLD」から前作に比べて強靭でラウドなサウンドで迫ってくる。
続く「See you in my dream」で描かれるノスタルジーと性急感。
孤高を選び、俺たちが中心だと咆哮をあげる「WORLD IS MINE」では真正面から胸ぐらを掴まれるような気迫で己に訴えかけてくる。
そして秋の夕焼けを眺めながら聴いた「TONBO」の清水さんの歌声はどこまでも遠くへ広がって飛んでいくようだった。
音源オンリーでこれまでの迫力を叩き込まれてしまったら、ライブで目撃したらどうなってしまうのだろうかと。
この音楽にまだまだ多くの人が気づかされて叩き起こされるのだと思う。
Age Factory「WORLD IS MINE」
Age Factory「GOLD」
7. DATS「Digital Analog Translation System」
普段のBGMとして1番聴いたアルバムかもしれない。
力強い演奏が乗ったデジタルサウンドは脳を目覚めさせ、身体を叩き起こし、東京での生活に溶け込んで行った。
DATSというバンド名は「Digital Analog Translation System」の頭文字から取ったわけではないそうだが、バンドが掲げるスローガンとして相応しいタイトル。
デジタルとアナログとはすなわち機械と人間と置き換えることが出来ると思う。身体の重心から揺らされる電子音に乗せて届けられる日本語詞には体温と闘志が宿っている。
曲もビデオも本当にオシャレなバンドだけど、当初は屈強なライブバンドが集うUKプロジェクトに所属していて、今でもフィジカルに盛り上げるライブを目指しているという。
そんな現場主義なバックグラウンドが活きている作品だと思うし、今年もパンク・ラウド界との共演も果たして爪痕を残している。
これからもジャンルを行き来しながら大きくなって欲しいと思わせるメジャーデビューアルバムだ。
DATS「Memory」
DATS「Heart」
6. teto「手」
20代になり大人になったなと感じると同時に、1日1日を大切に抱きしめること、日常に異を唱えながら戦うことを止めて惰性になってしまったように思う。
そんな日々の無意識から叩き起こしてくれるのがtetoの音楽だ。
15曲というボリュームのアルバムで特に重視したのは”純度”の高さだという。
純度が高いからこそ生まれたであろう「奴隷の唄」「市の商人たち」「洗脳教育」はネーミングからインパクトが強いし、攻撃的な歌詞が飛びかかってくる前半の山場。
そして、”衝動的に生き急がなくていいから、未来に繋がるように生きて欲しい”と歌った「拝啓」
“忘れたくない1日にしたい、自分の居場所を知られたくないけど誰かに気づいて欲しい”と切実な想いを叫んだ「忘れた」の2曲は特に純度の高さを感じ、この1年に強く刻まれた曲になった。
teto「Pain Pain Pain」
teto「拝啓」
Top15に入らなかったアルバムダイジェスト
Top5に入る前に、今回ベストとして選んだ15枚には選ばなかったものの、よく聴いた/印象に残っているアルバムをアルファベット順に15枚並べてみた。
Attractions「DISTANCE」
BIGMAMA「-11℃」
FINLANDS「BI」
Homecomings「WHALE LIVING」
降谷建志「THE PENDULUM」
KIRINJI「愛をあるだけ、すべて」
MONO NO AWARE「AHA」
ネクライトーキー「ONE!」
odol「往来するもの」
Official髭男dism「エスカパレード」
ストレイテナー「Future Soundtrack」
TENDRE「NOT IN ALMIGHTY」
tofubeats「RUN」
Wienners「TEN」
ヤバイTシャツ屋さん「Galaxy of the Tank-top」
ベストアルバム2018 Top5~1
5. WANIMA「Everybody!!」
パンク畑のバンドが、パンクバンドの熱気のままドーム会場までたどり着いてしまった。
今年WANIMAを生で観る機会はなかったけど、今年の活躍ぶりはパンクロック史に残る一大事だと思う。
巻き込む人が大きくなるということは器が大きくなるということで、それと共にリスナー1人ひとりに接近する度合いは増して強くなっていく。
サンサン照りつける太陽は、必ず抱える影とセットなのだということ、「自分のための歌」でもあり「みんなの歌」でもあるのがWANIMAの音楽だということを改めて感じた。
大きくなったことに寂しさを感じたファンもいたかもしれないけど、らしさを更に高めたアルバムだと思う。
すっかりお茶の間に浸透しているとは思うけど、歌番組で観るWANIMAは毎回なんだかアウェーに見えるし、画面越しで孤軍奮闘している姿からはロックバンドのプライドを感じている。
このまま行けるところまで突っ走って、ロックバンドシーンに還元していって欲しい。
夏の面影を色濃く描いた「花火」は今年の中でトップクラスのグッドメロディー。
WANIMA「シグナル」
WANIMA「花火」
4. MAN WITH A MISSION「Chasing the Horizon」
ワールドスタンダードな最先端のサウンドを難なく乗りこなし、一方で力強いロックチューン地平線を目指して荒れた荒野を突き進む。
人間界に警鐘を鳴らす「2045」をはじめ、時代性のあるメッセージも共存した1枚。
ライブ行きたいを通り越して音源だけで完結しちゃうぐらいの完成度の高さ。アグレッシブだけどその完成度に聴き入るばかりのロックナンバーの連続。
「Chasing the Horizon」から「Find You」に続く終盤の歌からは野生の温もりを感じる。
TVや映画で流れる曲も壮大なバラードも、ロックの熱をそのままポピュラーにしてしまうオオカミ達。
やはり人間の野郎よりも1つ上から遠くの地平線を追いかけているに違いない。視界が一気にクリアになるダイナミックなロックアルバム。
MAN WITH A MISSION「2045」
MAN WITH A MISSION「Winding Road」
3. RADWIMPS「ANTI ANTI GENERATION」
ANTI ANTI GENERATION=アンチ安泰ジェネレーション
誰かの船に乗って舵を取って貰って きた自分たちゆとり世代を標的に、RADWIMPSはアンチテーゼの形をしたエールを贈ってくれた。
自分がやっていることは恥ずべきことではないか、誰かに操られていないかと、世間の違和感に訴えかける。
そして答えのない自分だけの正解へ、その山の頂きへと背中を押す、温かくて勇気をもらえるアルバム。
バンドという枠に囚われない圧倒的なスケールとバリエーション、そして豪華コラボを詰め込んだ豊かな楽曲群は、RADWIMPSという大きな屋号、アンチ安泰ジェネレーションのスローガンの下でより大勢の人を巻き込んだ。
第一線のアーティストや、次世代の若者の声を借りて、一丸となって1つの世代として響かせる音楽。
RADWIMPS級のロックバンドがここまでやること、ここまでやらないと伝えられない想いを感じ取って欲しい、
RADWIMPS「PAPARAZZI〜*この物語はフィクションです〜」
RADWIMPS「カタルシスト」
2. 04 Limited Sazabys「SOIL」
ロックバンド04 Limited Sazabysは、何処からやって来て一体何者なのか。
10年前の原風景と、10年の間で見つけて磨き上げた武器を十分に見せつけたアルバムであり、ヒーローになるまでの道のりの集大成でもあり、自分自身に立ち返るための土壌がこの「SOIL」である。
ミュージシャンとかロックスターという響きとは少し違う。フォーリミはヒーローだ。
自身の内側と戦う姿でリスナーの根性を叩き上げ、メンタルを武装させ、夢を見せてくれる。
先輩からも後輩からも同世代からも期待を向けられる存在感の大きさ、フォーリミはそれを自覚しながら、ジャンルを横断して、次世代を引っ張り上げる。
自身が1番輝ける場所を探しながら、常に周囲のロック界を巻き込んで盛り上げようという姿勢は本当に頼もしく心強い。
そして、バンドの立ち位置を確認して踏みしめた土壌からは、これからの更なる可能性の芽が育っていると思う。次の10年により一層の跳躍力をもたらしてくれるはずだ。
2019年も現場の最前線で追い続けていきたい。
04 Limited Sazabys「Milestone」
04 Limited Sazabys「Squall」
04 Limited Sazabys「message」
1. ASIAN KUNG-FU GENERATION 「ホームタウン」
「日本の音楽の中で1番のアルバムにしたい」
発売前の雑誌のインタビューでゴッチさんが語っていた言葉。
「自信を持ってこう言える今のアジカン、めちゃくちゃカッコ良いな!!」とシンプルに思ったのが今年のベストアルバムに選んだ最大の理由だ。
世界の最前線で鳴っているサウンドを、日本のロックバンドとして、ひいては打ち込みではなくギター・ベース・ドラムの生の楽器でどう鳴らしていくのか、という音に対する研究と執着。
多くのミュージシャンとの共作と、サブスク時代の音楽の聴かれ方を見越した2枚構成。
そして何と言っても、「自分にとって相応しいことを見つけて、それを大事に握り締めて胸を張っていこう」という未来への温かいエール。
ゼロ年代から10年代、新世紀の日本のロックバンドのスタンダードを作り上げ、アジカンの影響を受けて始めたバンドが新しい時代を作っている中、アジカンはここでまたロックのスタンダードをアップデートした。
ロックに出会い、夢と希望を持つリスナーとアーティストの未来に還元される作品は、日本のロックシーンにとってのまさにホームタウン。
世代の担い手として、心に響く「オールライト」を叫び続けて欲しい。どこまでも。
ASIAN KUNG-FU GENERATION「ホームタウン」
ASIAN KUNG-FU GENERATION「荒野を歩け」
ASIAN KUNG-FU GENERATION「ボーイズ&ガールズ」
総評 〜ベストアルバム2018を選んでみて〜
というわけで、SUGAROCK編集部が選んだベストアルバム2018、いかがだったでしょうか。
まぁ編集部は僕1人、、、というわけではなく、この1年関わってくれた/影響を受けた音楽ブロガーの皆様、読者・フォロワーの皆さんのお陰で揃ったベストです。
結果としては、今年も自分の好きなロックのジャンルが揃うベストアルバムになりました。
純粋に好きな音楽を選んで聴くのも勿論だけど、作品に対する思い入れ、自分にとっての意味合いを深めるためにも、こういう企画をやり抜くことの重要さを感じました。
2018年は若い世代の代弁者であるロックを強く求め、未来を見据えて変化を続け、次の世代を引き上げようとしていたり、色んな人を巻き込もうとしているアーティストに魅力を感じ、ベストアルバムにもそれが反映されています。
TOP3は特にこの評価軸にハマった名盤だと思います。
また、冒頭にも書いたけど音楽の聴き方にも大きな変化が起きました。
来年はもっと色んなジャンルを横断して良い音楽に出会える気がしているので、早くも来年の年末が楽しみです。
最後に、おさらいとしてベストアルバムをまとめました!聴いたアルバムも聴いてないアルバムも1年を振り返りながら是非聴いてみてくださいね。
ASIAN KUNG-FU GENERATION「ホームタウン」
04 Limited Sazabys「SOIL」
RADWIMPS「ANTI ANTI GENERATION」
MAN WITH A MISSION「Chasing the Horizon」
WANIMA「Everybody!!」
teto「手」
DATS「Digital Analog Translation System」
Age Factory「GOLD」
きのこ帝国「タイム・ラプス」
[ALEXANDROS]「Sleepless in Brooklyn」
クリープハイプ「泣きたくなるほど嬉しい日々に」
マテリアルクラブ「マテリアルクラブ」
HEY-SMITH「Life In The Sun」
KEYTALK「Rainbow」
羊文学「若者たちへ」