ここ最近、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのライブをよく観に行っている。
片やアットホームな雰囲気が流れる主催ツアー、片や大型フェスで大トリの大役を背負ったステージ。
アジカンがフェスに出る時は大体その1日を締めくくる時間帯に登場することがほとんど。この十数年の間に大規模なフェスが各地に乱立するほど日本のロックシーンをポピュラーなものに押し上げたロックバンドの代表的存在だからだ。
そんな中、先日のGWに行われたVIVA LA ROCKにおけるアジカンは他のフェスとは少し異なる存在感を放っていたように感じる。
所謂フェスロックの本流から外れたアーティストが集結したビバラロックの2日目、最後に立つのは、平成後期のロックの王道を作り上げたASIAN KUNG-FU GENERATION。これを浮いてると取るかハマってると取るか、注目ですぞ#ビバラ
— Sugar (@Sugarrrrrrrock) May 4, 2019
ビバラロックはここ数年、いわゆる邦楽ロックとは異なるフィールドで活躍しているアーティストが多く集める日を設けている。ヒップホップやラップなど多様な音楽が交わった1日を、今年はギターロックの王道を作り上げたアジカンが締め括ったのだ。
正直言ってアジカンが浮いてるラインナップに見えたが、この日に呼ばれた理由は少し考えればピンと来た。
何故なら、アジカンこそ多様な音楽が共存することを求めているから。
王道と言われ、スタンダードと言われ、外から求められる「ロックバンドらしさ」を引き受けながらも、古びることなく、新たな一面を見せ続けてきた。バンド音楽と向き合いながら最新型を見せてくれるからだ。
地名だけが古いままの新しい地図
先に挙げた全国ツアーやフェスをはじめ、最近のアジカンはライブの最後に新曲を演奏している。
「解放区」というタイトルの新曲だ。
昨年末にリリースした最新アルバム「ホームタウン」は、主にサウンド面において世界のポップ・ミュージックに近づこうと取り組み、それをバンド演奏で表現することに挑戦した意欲作だった。
そこから更なる新境地を切り拓いた新曲。
アルバムで手に入れた豊かな低音、楽器の一音一打のダイナミックさはそのままに、曲が進むに連れてポエトリーリーディング、ラストの合唱パートと、ロックバンドの枠を超えていくような展開が待っている。
後半にある「地名だけが古いままの新しい地図」という詞は、「ホームタウン」から「解放区」へと向かう今のアジカンを象徴しているようだ。
ロックバンドという使い古されたフォーマットと向き合いながら、それでもバンドとしてスタンダードを更新していこうとする意気込みはより一層強くなっているように思える。
高層ビル越しの斜陽
工場街の雑踏
登りつめた先の緩やかな坂道を下る
ASIAN KUNG-FU GENERATION「解放区」
ポエトリーリーディング、つまり曲中でゴッチさんが詞を朗読する最初の一節。
成長のピークまで登りつめてこの国の現状を表した詞だと思うが、世界的に見た今のバンド音楽の現状のようでもある。
更には、今まで以上にリスナーと同じ視点に立って活動を還元していくバンドの姿をも投影してしまう。
経験したことのある方なら分かると思うが、今のアジカンのライブは本当に”距離感”が近い。
「誰かの真似事はいらない。好きなように自由に楽しんで」というメッセージをステージで体現していて、それが客席に浸透していくのが目に見える。
感情を込められる部分はそれぞれ違う。楽しむスタイルも違う。その違いをリスペクトすること。自分らしくいることと多様性を認めることはイコールであること。
最後の合唱パートが「笑え 走れ 踊れ 歌え」ではなくて「笑い出せ 走り出せ 踊り出せ 歌い出せ」なのも、聴き手の自発的な心の解放を後押ししているようだ。
まずは音楽が鳴っている空間から、そんな各々のフィーリングを共有出来たら良いなと思う。みんなそれぞれの楽しみ方、感性、考えを胸張って表現出来る場所を。
足跡だらけの地平にまたひとつ新しい一歩を踏み出す楽曲だ。
誰よりも自分が心を解放出来ることを
「解放区」という新たなロックアンセムを手に、大型連休のフェスシーズンを挟んでバンドは全国ツアーを再開。自分は先日行われた中野サンプラザでのワンマンライブを観た。
ライブハウスやフェスの巨大ステージから座席指定のホールに会場を移して鳴らされるアジカンの音楽は、誰の真似事もせず自分のスタイルで自由に楽しむにはうってつけだった。
バンドをホールで観るの初めてだったけどめちゃくちゃ良かったな。見やすさ以上にノリの部分、全体的に少しずつ恥じらいがほどけていくような感じでね。
指定席があって周りのお客さんとは干渉しない。そんな縛りがあるからこそ各々で1番自由に楽しめるポイントを見つけられるんだろうね◎ https://t.co/0wSEXRTbgN
— Sugar (@Sugarrrrrrrock) May 29, 2019
前作のツアーでプロジェクションマッピングの演出を全面的に取り入れたように、今回のツアーにおいてもホール会場でのライブの可能性も追求している。
この日ゴッチさんは「自分がカッコ良いと思ったことをやる。自分が学んできたことを美しい言葉やカッコ良い言葉で表現出来るって凄くクールなことだと思う」と話していた。
アジカンはこれからもロックバンドの道標として、カッコ良くて新しいことに挑戦していくだろう。時代に流されるでもなく抗うでもなく、譲れないものを持って世の中と接続していくだろう。
新元号の祝福ムードも束の間、相変わらず先行きは見えない時代を生きている。与えられる自由は狭まっていくなら、自分から心を解放して手に入れる自由を。斜陽を希望の光に変え、勢いに乗って下り坂を駆け抜けた先に、それぞれの解放区が待っている。
最近のアジカンの音楽に触れて思うのはいつも同じ。朗らかに年を重ねて、得た経験は周囲に分け与えること。
一方で自分が熱を注げる先も持ってて若く在り続けること。歴史を受け継ぎつつも新しいやり方で。
そうやって自らを解放していく。頭と心は自由に、自分がイケてると思うことに胸を張ってね。 pic.twitter.com/gdhIHAq5F1— Sugar (@Sugarrrrrrrock) May 29, 2019