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フジファブリックが「手紙」を「東京」と言い間違えたのは必然だった

ここ最近、ロックバンドの周年アニバーサリーに立ち会う機会が多い。

 

10年20年、結成から誰一人として欠けることなく活躍し続けているバンドもいる。

だけど、バンドのキャリアが長くなればなるほど、そこには出会いと別れも付き纏うし、止まったり、再開したり、形を変えたりしながら活動を続けているバンドの方が多い。

 

フロントマンの死別を乗り越えてバンドを続けてきたフジファブリックはその代表的存在だと思う。

 

2019年にデビュー15周年を迎えたバンドは「F」というタイトルのフルアルバムをリリースした。

 

自分は生で志村さんを観たこともなければ、毎作アルバムを聴き込んでライブを観に行く熱烈なファンというわけでもない。

だけど、今作の楽曲とそこにまつわるエピソードにただならぬドラマを感じたので、リスペクトを込めて書きました。

デビュー15周年に放つ2度目のセルフタイトル

2004年に1stアルバム「フジファブリック」をリリースしてから15年。

この「F」もバンドの頭文字から取られたセルフタイトルのアルバムだ。

その他にも様々な意味と想いを「F」に込めた作品だという。

 

15周年だから”Fifteen”にもかかっているし、収録曲からは”Fever(熱)”や”Food”の「F」でもあることが分かる。

 

これが最後でも悔いの無い作品という想いを込めて”FINAL”の「F」でもあるらしい。

 

 

その意志の強さが冒頭の「Walk On The Way」「破顔」の雄大なサウンドに表れているように感じる。


この2曲の「さあ」という掛け声から感じる優しさと力強さ。

これが最後になっても良いという覚悟の強さが、結果的にバンドのこれからを更に前進させるエンジンになっているよう。

 

一方でユーモアに溢れていて、一筋縄ではいかないトリッキーな曲もフジファブリックらしい。

特にパスタを擬人化して、感情の振れ幅を血糖値の上昇になぞらえて歌った「恋するパスタ」の世界観には笑いを通り越して感激した。

「手紙」を「東京」と言い間違えたのも必然だった

あたらしい曲にもフジファブリックらしい要素が詰まっている「F」

中でもひときわ強い存在感を放っている曲がある。

 

それが、3曲目の「手紙」とアルバムの最後を締めくくる「東京」の2曲だ。

ボーカル山内さんの地元である大阪の景色を映したティザー映像。

 

このアルバムには「ふるさと」の「F」も詰まっているのだ。

 

自身の故郷のことを、故郷での思い出を、もう会えない友のことを歌った曲。

パーソナルな部分も感じつつ、同じように故郷を離れて生活している人の想いを代弁している。

 

曲の終盤にある

「離れた街でも大事な友を見つけたよ」

という歌詞で歌われている”大事な友”とはきっとバンドメンバーのことだと思う。

 

 

そして、”離れた街”というのが言うまでもなく、今バンドが拠点にして活動している「東京」のこと。

この曲、実はライブで「手紙」を演奏する前に山内さんが曲名を言い間違えたのがきっかけで生まれた、というコミカルなエピソードがある。

 

山内総一郎「僕はギターのGコードを鳴らしたことがきっかけでプロのミュージシャンを目指しました。それから東京に出て来て、東京でも大切な友達ができました。そして、大切な友達を失う経験もしました。そして今まで感じていなかった故郷の大切さや想いを改めて感じています。東京は自分にとって故郷をくれました。そんな東京にこの曲を捧げます。最後の曲です。『東京』」

【ライブレポ】フジファブリックとユニコーンの対バンが半端ない  オトニッチ-音楽の情報.com(https://www.ongakunojouhou.com/entry/2018/07/17/215924)

 

いやいやそんなことあるのかよって思ったけど。

 


そんなことが作るきっかけで、当初は大事な曲を言い間違える山内さんの天然っぷりが注目されていた。

だから最初は興味半分だったけど、聴いてみたらそんなエピソードを忘れてしまうぐらいの名曲だった。

 

こんな気持ちよく踊れそうな曲に力強いメッセージを込めて、アルバムの最後に持ってきちゃうのが流石のセンスだと思う。

 

期限が切れて感じるだろう

これでよかったのか 思うはずさ

行くしかないよ 確かめてみよう

他には無いよ方法

– フジファブリック「東京」

 

バンドで成功するという夢を背負って上京した時の自身に向けて、

同じように東京で夢を叶えるべく戦っている人に向けて、

そして「まだまだこれから」と今のバンドに向けて、まさに”鼓舞する”曲だ。

 

 

それになんと言っても、東京から故郷に向けて歌った「手紙」との対比がとても際立っている。

今となってはあの言い間違えも必然だったのではないかと思うし、バンドは見事に必然に変える曲にしてみせたと思う。

 

“2度目”の凱旋ライブを控えている

フジファブリックの「F」は故郷への想いを綴った「手紙」と、今いる街で戦い続ける決意を歌った「東京」を筆頭に、デビュー15周年への強い執念を感じる名盤だ。

 

リリースツアーを周った後には、大阪城ホールでアニバーサリーライブを行うことが決まっている。

山内さんの”故郷”である大阪、いわば凱旋ライブと言えるだろう。

 

 

凱旋ライブと言えば、フジファブリックのファンさんは思い浮かべるライブと、同じように東京から故郷へ向けて歌った曲を思い浮かべるのではないだろうか。

 

昨年「手紙」が配信された時から「茜色の夕日」とリンクさせながら大事に聴いていた人も多いと思うし、今回リリースされた「東京」もそのような曲として聴いているのではないだろうか。

 

「茜色の夕日」で志村さんは”東京にいても星が見えないことはない”と歌った。

その歌声を聴いてきた山内さん加藤さんダイスケさんは、今回のアルバムの最後を”瞬く東京”という詞で締めくくった。

 

 

11年前の富士吉田での凱旋ライブの映像で、志村さんの目から大粒の涙が溢れた熱演を観た。

 

大阪城ホールで迎える2度目の凱旋ライブはどうだろう。

 

 

まだもう少し先の話だけど、山内さんが「大阪」という存在しない曲名を間違えて言ってしまうことだけはどうか避けて欲しい。