レビュー

【感想】アジカン後藤正文さん著「凍った脳みそ」は笑える音の専門書

Sugar(@Sugarrrrrrrock)です。

最近、いかがお過ごしでしょうか。

僕はSNSを眺めてはライブの出来事の悪い面ばっかりが目に入って気分が悪い。

その場に居合わせていない人たちが各々正論みたいなことを言っててさらに気分が悪い。

まぁ議論が盛り上がることは悪いことじゃないんですけど。。。

もっと明るく笑えて実用的な音楽の話が聞きたい!!

なんなら、クルクルパーマみたいにこんがらがって捻くれてるような笑いで楽しませて欲しい!!

そんな僕は奇跡の1冊に出会いました。

ロックバンド、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのフロントマン、後藤正文さんの新しいエッセイ「凍った脳みそ」という本です。

様々な青年的な葛藤を経て、経て、経て、皮を剥いてヘタを取って、中から出てきた中年男性を鍋に入れて煮、冷蔵庫で粗熱を取ってから冷凍し、しばらくしてから取り出して皿に盛り付けたのがコールド・ブレイン・スタジオであり、本書である。とか言うと、わけがわからないかもしれない。が、この本はれっきとした音楽書であり、スタジオ作りにまつわる冒険譚でもある。とかなんとか言いながら、俺は今日もまたスタジオの音響について悩んでいる ー「あとがき」より

帯に書かれたこの文章と、表紙のメガネおじさんの出で立ちのユルさを見て、一目散にレジに駆け込み読み耽りました。

とても面白い本だったので、今回は読んだ感想と内容を少しばかり紹介しに来ました。

ざっくりまとめると、

文章のクセが強くて結局のところ音楽を深く知れたかどうかはイマイチわからないけど、知った気にはなれる、笑える音の専門書って感じ。

面白おかしく時に専門的だけど、生活感には溢れている内容なので、バンドマンの生活、ライブ以外の仕事の部分を知りたい人にもオススメの1冊です。

「凍った脳みそ」はどんな本か?

なんで「凍った脳みそ」なの?

タイトルの「凍った脳みそ」

自分みたいに内気な人が惹かれそうなネガティブなタイトルですが、これはゴッチさんの個人スタジオ「コールド・ブレイン・スタジオ」が由来です。

そしてそのスタジオの名前の由来は彼がリスペクトしているBECKの楽曲から取られています。

このスタジオを立ち上げて、環境を整えて機材を揃えていく過程がこの本のメインストーリー。

その中でゴッチさんが興奮気味になったり不安になったり落ち込んだり絶望の果てに沈んだりすることを脳みそが凍る/溶けると表現しています。

その時々で凍り方も溶け方の表現の仕方が違ったり、場合によっては食べ頃みたいな程よい溶け具合になったりしていて面白い。

ゴッチさんは脳が凍ったり溶けたりする過程を繰り返し、次第に恥ずかしさに沈んでえら呼吸を身につけ、ハゼやマグロと融合して半魚人になって、最終的に海老になったらしいです。

何言ってるか訳わかんないと思うので是非読んで頂きたい。魚介系が沢山登場するのにも理由があったりします。

「凍った脳みそ」の大まかなあらすじ

「凍った脳みそ」はWebの連載を書籍化したエッセイ集なんですけど、1冊通してスタジオが完成していく過程が描かれている”物語”になっています。

ただ、連載の時のタイトルがいかにもゴッチさんらしくなかなかクセが強くて、何のこと書いてあるのかイマイチわかんない(褒め言葉)

わかりやすい大まかなあらすじを載せるとこんな感じです。

・スタジオのスペースを借りる

・掃除する

・アンプを天日干しする

・ホームセンターに通いつめる

・機材を買い揃える

・諭吉先生が飛びまくる

・「Wonder Future」L.Aレコーディング

・録音ブースを作る

・作業場かられっきとしたスタジオになる

・音への奥深い探求は続く

まだ若干クセが残ってるかもしれないですけど。。。

序盤のアンプとかホームセンターのくだりは1冊の中でも特に面白い部分です。

「凍った脳みそ」感想

ゴッチ文体のクセが強い!

1番読み応えがあって魅力が詰まってる部分なのですが、文体というか言葉の言い回しにとにかくクセが強い(笑)

ゴッチ訛りというか、あのパーマみたいにクルクルモジャモジャな文体。1度絡まったらなかなか抜け出せない中毒性。

音楽書(の体)なので、機材にわかりやすい名前をつけたり擬人化して説明してたりするんだけど、

結局はワードセンスのクセが強すぎて結局機材のことも曲の制作工程がどうなっているかもイマイチわかんない。そのクセの強さを笑って楽しむことにこの本の意義はあると思います。

ゴッチ金持ってる!

どストレートな感想ですけど(笑)

音楽スタジオの話なので、機材を購入するシーンが何度も登場します。

その度に「持ってんなぁ〜」と。笑

仕方がないので、それぞれのプラグインのダウンロードページへ行き、カチカチとマウスを数回クリックした。瞬時に十枚近くの福沢諭吉が消え失せてしまった。

p74「機材選びにともなう様々な困難」

「NEVE 1066」というプリアンプ(マイクや楽器とレコーダーの間につなぐ前置増幅器)のペアは、三桁の福沢先生をジョージ・ワシントンに変換させ、海外に旅立たせたのだった。合わせて購入した「RETRO 176」というコンプレッサー(音を圧縮する機材)によっては、二桁の諭吉が通帳からテレポーテーションの技を使って消え失せたのである。

p77「機材選びにともなう様々な困難」

どんだけ諭吉先生飛ばしてんねん。

これだけ環境に投資して素晴らしいクオリティの音楽を作ろうと、プロのミュージシャンは身銭切ってやってるわけです。

なのでこちら側としても、”アーティストに利益が行き渡るように”というところを避けずに音楽体験を楽しみたいと改めて思わされました。

ゴッチプロフェッショナル!

改めて言うようなことじゃないかもしれないけど、文筆家としても勿論ミュージシャンとしてもプロ中のプロだなと。

音に対する並々ならないこだわりがあるからこそ、脳みそが凍てつくような苦難を何度も乗り越えられるんだと。

そして、この経験から得たものを他のミュージシャンに還元している姿勢まで含めてプロフェッショナルです。

機材の話とかレコーディングの方法云々っていうのも書かれてはいるけど、1番は「この人これだけ本気で音楽やってんだな」っていうのを感じて欲しいですね。

脳みそが凍てつくような経験はニューアルバムの序章

自分が打ち震えるような音楽を作りたいという欲望が俺の俺たるところの真ん中に据え置かれている

p.195「あとがき」

これが本質なんだけど、結局のところゴッチさんの頭の捻くれ具合と文章のクセの強さにぐへへ、と笑えたら良いんじゃないかと。

わかるようでわからない。けどこの人すげぇ!みたいな、とにかくまずは面白い本です。

1回読んだらまた読み返したくなる文章なので、何度か読むうちに本質的なところにたどり着くんじゃなかろうかと。

そして、あとがきに書かれている更なる音への探究心が12月発売のアジカンのニューアルバム「ホームタウン」に続いています。

すべての苦労は、その「なんか音よくね?」という瞬間に向けられていると言っても過言ではない。
アルバム完成&凍った脳みそ(http://gotch.info/post/179173061997/)

この本からのアルバム、僕はとても楽しみなので、

「ホームタウン」発売までの1ヶ月、このサイトで「ASIAN KUNG-FU GENERATION特集」なるものを行うことにしました。

「時代を貫いて響くもの」ASIAN KUNG-FU GENERATIONを特集します。

(ざっくり説明すると、週1でこれまでのアルバム1枚ないし2枚を取り上げて、アジカンのことを語るみたいな感じです。合わせて読んで頂きたい…!!)

ということで、1冊の本としても、新譜の期待を高める足がかりとしても「凍った脳みそ」はオススメです。是非チェックしてみて下さい。

出版のミシマ社のHPで「凍った脳みそ」の冒頭部分とゴッチさんのインタビューが公開されています。